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障害のある人もない人も一緒に本を読む
視覚に障害のある人とない人が同じ一冊の本を読んで語り合う読書会「よむ・きく・はなす」は、社会福祉法人名古屋ライトハウスが運営する情報文化センターが2020年から企画している催しです。このユニークな試みはどのように始まったのか。点字・音声図書はどのように作られているのか。施設長の岩間康治さん、職員の矢野友香さん、本企画の発案者であり、現在は同法人の別施設で働く中田義雄さんにお話をお伺いしました。
(まとめ:黒田 杏子)
点字図書、音声図書について
―まず最初に、名古屋ライトハウス 情報文化センターとはどのような施設なのでしょうか。
岩間:視覚の認識に障害がある人が必要とする情報を提供しています。具体的には、点字・音声図書の制作と貸出、白杖など生活を助ける用具の販売、IT 支援や、さまざまな暮しのご相談も承っています。2019年に「読書バリアフリー法案」(※注1)が成立、施行されたことを受け、本を読むことに困難を感じている様々な方にこの施設を利用していただくことを目的にしています。例えば、障害者手帳を持っている視覚障害者の方以外にも、発達障害で文字の理解が難しい方や、ディスレクシア(識字障害、読字障害など)の方、ほかにも上肢障害でページをめくれないという方たちにも、できるだけ多くの本にアクセスできる環境づくりを進めています。
―今、点字図書、音声図書は何タイトルくらいあるのでしょうか。
岩間:当センターでは両方あわせて3万タイトル強くらいでしょうか。それ以外に、2009年から運用が開始された、サピエ図書館という全国の視聴覚情報提供施設が作成した、約80万件の点字データと音声データが集約されたウェブサイトのプラットホームがあります。利用者が直接ダウンロードしたり、視聴覚情報提供施設や公立図書館でダウンロードして貸出をしたりという形で利用されています。
―点字図書、音声図書ができるまでを教えてください。
矢野:月に一度の選書会議で本を選びます。利用者からのリクエスト作品に加え、選定委員5人がひとり7冊ずつ持ち寄る候補作から選定し、ひと月に各20冊を点訳・音訳するという流れです。点訳・音訳それぞれ、100名以上のボランティアの皆さんが作業を進め、完成までにおよそ半年くらいかかります。貸出の際は、音声図書はCDで、点字の場合は点字図書で貸出しています。アクセシビリティでいえば、サピエ図書館の方が便利ですが当センターには司書がいるので、本の相談を受けられるという利点があります。ちなみに利用者には、時代小説、推理小説、官能小説が人気ですね。
点字図書が並ぶ。
障害のある方とない方が出会う場をつくる
―読書会「よむ・きく・はなす」を始められたきっかけを教えてください
中田:施設長をはじめ、約三分の一の職員が視覚障害者である情報文化センターで一緒に働いたことで、視覚障害について徐々に理解し体感していった私自身の経験は大きかったですね。現代の日本では視覚に限らず、障害者は社会からは大変見えにくい存在になってしまっていると感じています。多くの人にとって「接し方がわからない」相手になっているように思います。視覚障害者の暮らしの向上に尽力された多くの先達は、社会的にも時代的にも、まずは人として当たり前の権利を行使できる環境づくり、制度づくりに注力せざるを得ず、市井の人たちに視覚障害者への関心や理解を深めたり、当センターのような施設を、利用する人にとって心地よい居場所にすることは、やや後回しになってしまったように思います。でも今であれば、当センターの取り組みを社会に開くことで、障害がある人とない人が出会う機会をつくれる。それはささやかだけど、とても大事なことなのではないかと思ったことがきっかけです。視覚障害の有無に関係なく、同じ本を読んで語り合うという場をつくることは、図 書館で あり、かつ点字・音声図書を制作している当センターだからこそできることだと思いました。
―参加者の反応はどうでしたか?
中田:最初は、視覚に障害のある方とお話するのも初めて、という方が大半でした。とはいえ視覚障害について話をするわけでなく、本の話をするわけですよね。お互いに同じ本を読んできた読書会の参加者ということでは一緒なんです。少人数での開催ということもあり、初回からリラックスした場がつくれたと思います。
矢野:晴眼(※注2)の方が、テーブルに置いてある音声図書の再生機器に興味を持って「これどうやって使うの?」と視覚に障害のある方に教わったり、表紙の色や装画など本の外側について視覚に障害のある方が晴眼の方に聞いたりといった交流が生まれています。アンケートでも、課題本についてや読書会の運営だけでなく、視覚障害を身近に感じることができたとか、街で視覚障害者を見かけた時に意識するようになった、というお声をいただいています。
ここで起きていたこと
―私が参加させていただいた第三回では、作品の中に、見た目で国籍を判断するという場面がありました。視覚に障害のある方が「自分は目が見えないから、見た目で人を判断するっていうことがわからないんですが、どんな感覚なんでしょうか?」とおっしゃられて、はっとしました。そういう問いかけがあったことで、私たちは普段何を見ているんだろう、見えているってどういうことなんだろうと考えることができました。ケアをする・されるという立場ではなく、同じ本の読者として晴眼者と視覚障害者がフラットに話ができるという経験は初めてでした。
中田:印象に残っているのは、第二回で作品に大垣(岐阜県)の話が出てきたことから、大垣の昔の風景を話してくれた晴眼の方がいました。するとそれを聞いた視覚に障害のある方が、ああ、そうだったそうだったって、話し出したんです。見えていた頃のことを思い出されていたんですね。それは作品からではなく他の参加者の言葉から呼び起こされた記憶なんです。
そのやり取りが、とても自然で良かったんですよね。
街の中で言葉を交わす
―この場でしか起きないやりとりが生まれていると感じます。今後の展望はありますか?
矢野:次回は2023年9月に開催予定です。リピーターの方も多いのですが、新しい方にもどんどん参加してほしいと思っています。第六回からは私が選書を担当していますが、課題本によっても参加者の顔ぶれも替わるので、会の雰囲気や目的は変えずに選書の系統を少しずつ変えて、様々な方に参加してもらえるように工夫したいと思います。
中田:私は、センターの協力のもと、別の場所で新たなイベントを企画しています。今秋には、視覚障害者に参加してもらう、戯曲を読むワークショップを開催します。俳優や演出家にも来てもらい、舞台が出来上がるまでのプロセスを体験するというものです。こうした取り組みを繰り返すことで、イベントの場だけではなく、街で参加者同士が偶然再会し、言葉を交わすとか、横断歩道で困っている視覚障害者を見かけた時に声を
かけやすくなるとか、そうしたちょっとした変化で、誰もが少しずつ暮らしやすくなるのでは、と考えています。
―多くの方に体験してほしいですね。今後も楽しみにしています。
- ※注1正式名称は「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」
- ※注2視覚に障害がないこと。
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第一回(2020年9月)『ショウコの微笑』
著:チェ・ウニョン 監修:吉川凪 訳:牧野美加、横本麻矢、小林由紀(クオン) -
第二回(2021年3月)『すべて名もなき未来』
著:樋口恭介(晶文社) -
第三回(2021年11月)『「国語」から旅立って』
著:温 又柔(新曜社) -
第四回(2022年3月)『もう革命しかないもんね』
著:森元 斎(晶文社) -
第五回(2022年9月)『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』
著:バリー・ユアグロー 訳:柴田元幸(ignition gallery) -
第六回(2023年3月)『ラドゥ・ルプーは語らない。-沈黙のピアニストをたどる20の素描』
編:板垣千佳子(アルテスパブリッシング)
