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作曲家

うしじま あきこ

牛島 安希子 さん

 愛知県大府市出身の牛島さん。現代音楽作曲家として愛知県を拠点に国内のみならず、欧米各地の音楽祭に参加するなど精力的な活動をされています。令和4年度愛知県芸術文化選奨文化新人賞を受賞し、将来を嘱望されている牛島さんにお話を伺いました。

(聞き手:濵津 清仁)

幼少時よりピアノ・作曲に親しむ

-どのようなきっかけで作曲を始めたのですか。

 記憶にないぐらい幼少の頃からピアノが好きだったようです。あまりにも楽しそうに弾いていたので両親がピアノを習わせようと、5歳から地元の音楽教室に通い始め、そこで同時に作曲を学びました。それが作曲との出会いです。J.S. バッハの作品などをピアノで弾くのも好きでしたが、もともとある曲を再現するより、自分の可能性を幅広く表現できる作曲に次第に夢中になっていきましたね。本を読んだり、空を見て想像を膨らませたりしては、その感覚を音にしていました。

親戚の家にてピアノに親しむ牛島さん(3歳)

 子どもの頃は音楽を職業にすることは意識していませんでした。ところが、音楽教室で師事していた作曲家の小井洋明先生から、中学卒業時に「君は作曲の才能があるから、これから高校3年間で勉強して愛知県立芸術大学に入りなさい。ストラヴィンスキーの『春の祭典』を聴いて、これを良いと思ったら作曲に向いている」と言われました。正直なところ中学生の時に『春の祭典』を理解できていたかわかりませんが、音楽が好きでしたし、“音楽を突き詰めることで自分に何か変化が起きるのでは”という予感がして、挑戦しようと決めました。そこから受験勉強に励み、現役で合格することができました。

方向性を試行錯誤する大学生活

 大学に進学してからの方が大変なことも多かったです。自分が現代音楽に取り組む意味を考えながら創作をしていました。卒業後、進学した同大学院では外部の先生方による集中講義があり、とても刺激を受けました。ノイズ・ミュージックなどの先鋭的な音楽との出会いに、“こんなことをやってもよいんだ”という解放感を感じたのを覚えています。

-どのような経緯でオランダ・ハーグへ留学したのでしょうか。
 大学時代に師事していた寺井尚行先生に留学を勧めていただいたこともあり、大学院修了後、学びを深めるためにオランダに留学しました。オランダは一般的には古楽というイメージがあると思いますが、電子音楽も非常に盛んです。また、オランダ第3の都市ハーグのハーグ王立音楽院では作曲家ルイ・アンドリーセンの影響で実験音楽に取り組む学生も多く、面白いことができそうだと思い進学を決めました。

留学先のオランダにて

牛島さんの音楽が世界へ羽ばたく

-作曲スタイルはどのようにして確立されたのですか。
 オランダでの様々な出会いにより、自分の音楽を一から問い直すことになりました。留学して2年目に作曲した『Distorted Melody』(2010)は、それまでの自分の音楽人生を丸ごとぶつけたような作品になりました。この作品がハーグでBang on A Can アンサンブル(ニューヨークを拠点としているアンサンブルグループ)により初演、2012年にはアメリカで再演され、自分の可能性が大きく広がるきっかけになりました。その後もベルギーでのアルス・ムジカ現代音楽祭や、日本でも東京芸術劇場主催のボンクリ・フェスティバルにて、音楽家の佐藤紀雄さんが率いるアンサンブル・ノマドにより再演されました。

2014年はリコーダー奏者のスザンナ・ボッシュより委嘱された作品『Instan’stillation』(コントラバスリコーダーとエレクトロニクスのための)の制作に力を入れました。コントラバスリコーダーは音色が多彩で魅力的な楽器ですし、スザンナは新しい奏法の開発にとても協力的で、そのやり取りの中で曲ができていくのが楽しかったです。この作品がきっかけで、楽器と電子音を組み合わせて作曲することが増えていきました。この作品も欧州各地で演奏していただきました。

『Instan’stillation』演奏の様子(2014年)

 作曲家としてはベートーヴェンなどの名曲よりもさらに良い作品を創らなければいけないというプレッシャーがあります。常に新しい技術を学びながら、自分なりの表現を獲得できないか日々模索しています。これまで先人が培ってきた作曲の技術に、自分が幼少時からピアノを通して親しんできた音楽を取り込んだ上で、今の時代だからこそ創る意味があるものを創りたいです。そして、何より自分が面白いと思う音楽を創り続けていきたいですね。

帰国後、地元の愛知でコンサートの企画に携わる

 2014年にオランダから帰国し、2016年には、あいちトリエンナーレ実行委員会が企画するトークイベントシリーズALASCOPE03「現代の音楽をめぐって」にて講師を務めました。愛知で再び活動するにあたり、現代音楽の面白さを伝える工夫をしようと意欲的に取り組みました。

ALASCOPE03「現代の音楽をめぐって」講座の様子(2016年)

2017年のアッセンブリッジ・ナゴヤ「みなとまちコンテンポラリー・ミュージックコンサート“みなとの永い夜”」では、現代音楽のコンサートを創り上げようと、名古屋市港区を取材して制作した、室内楽と映像のための『海と記憶と時間』を初演しました。映像は映像作家の丸山達也さんにお願いしました。どちらも企画の段階から携わったものです。

 2020年に始まったコロナ禍では、愛知県在住の演出家で映像作家の伏木啓さんに映像をお願いし、チェロとピアノ、エレクトロニクス、映像のための『La mémoire inconsciente』を制作・収録し、オンライン公演で発表しました。映像表現には可能性を感じますね。

 2022年3月にニューヨークでのミュージック・フロム・ジャパン音楽祭、4月にはロンドンのサウスバンクセンターにてそれぞれ委嘱作品が初演されました。今年の秋にも東京、スペインで作品が発表される予定です。作品は楽器編成や発表される場によって方向性が大きく変わりますが、”生命力のある音楽” という軸は意識しています。

ミュージック・フロム・ジャパン音楽祭
リハーサルの様子(2022年)

-最後に読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

 作曲をすることで社会に関わっていきたいですし、後進を育てることや研究にも力を入れていきたいと思っています。コンサートを聴きにきてくださる方々には、“メディアにのらない、面白い作品がたくさんあることを伝えたい”という気持ちがあります。挑戦し続ける音楽文化に、少しでもアンテナを広げていただけたらと思っています

愛知県芸術文化選奨授賞式

-コロナ禍を乗り越えて世界で活躍中の牛島さん。これからも目が離せません。