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- 独創性豊かな演奏家たち│小塚 憲二 さん
独創性豊かな演奏家たち
名古屋市は音楽活動が大変盛んな都市である。演奏家人口が多く、毎日のようにどこかでコンサートが開かれている。その中でも特に独創的な取り組みをしている若手、中堅の演奏家に焦点を当て、名古屋市とその周辺地域の音楽界の一コマを覗いてみようと思う。
(まとめ:小塚 憲二)
命をうたうトランペッター大和
トランペットのソリストとして活躍中の大和(本名:嶺元大和)さんは、九州の大学を卒業後、名古屋市にやって来て、主にオーケストラ奏者として演奏を続けていたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い仕事が激減。それを機に、自作の曲を中心にソリストとして活動していこうと思い立った。作曲には欠かせないジャズ理論を学んでさまざまなジャンルの音楽を習得し、2022年にはカフェでのライブを開始した。そして瞬く間に多くのファンを獲得し、年に数回のホール公演を実現するに至った。
大和さんの音楽はひとつのジャンルに収まるものではなく、聴き手に勇気と希望を与えてくれる曲や、日本的で味わい深い曲など多種多様である。ご自身の言葉をそのまま引用しよう。
「僕の音楽のテーマは『命をうたう』ことです。トランペットの音を通して、人の心や記憶、祈りに寄り添えるような作品づくりを目指しています。単に音を届けるのではなく、『生きること』そのものを感じてもらえるような表現を模索しています」。
飲食店を舞台に
ホール公演と並行して、カフェや飲食店でのライブも続けている。福岡県出身の大和さんは、名古屋の喫茶店文化に深く関心を寄せていて、東海地方の飲食店を舞台に音楽と飲食を融合させ、魅力的な街づくりに貢献する企画「YAMATO ONE-UP PROJECT」を立ち上げた。当初、店側の反応は芳しくなかったが、飛び込み営業を続けるうちに多くの賛同が得られるようになり、今では年に10回ものライブを行う店もあるという。新聞やテレビにも取り上げられ、注目を集めつつあり、ゆくゆくは若い世代にも引き継いでいきたいと考えているようだ。
そして2026年3月、念願だった愛知県芸術劇場コンサートホールでの自作公演を実現する。オーケストラ団員としてこの舞台に立つことは度々あったが、ソリストとしては初めて。クラウドファンディングなどで多額の費用を用意し、学生や若い音楽家は入場無料にするなどして、多くの観客を集めることができた。これまではピアノとドラムとの3人で演奏することが多かったが、この公演ではそれらに加え、弦楽器とフルート、そして和太鼓も登場させた。豊かな音量と多彩なサウンドに観客は酔いしれ、大盛況のうちに幕を閉じた。ソリストデビューから5年目、大和さんの挑戦はまだまだ続きそうだ。
(2026年3月22日、愛知県芸術劇場コンサートホール)
二刀流ピアニスト・金沢あきな
クラシックもジャズも弾きこなすピアニストの金沢あきなさんは、大学院を修了後、フランスに留学。最初の5年はクラシックピアノを、その後は別の学校で4年間ジャズを学んだ。ジャズの授業では、楽譜を取り上げられ、楽曲を耳で聴いて分析するなど、初めて体験する課題に困惑することもあったという。それでも長期間の留学生活でクラシックとジャズのスキルをしっかりと身につけ、帰国。ソロリサイタルをはじめ、さまざまな楽器プレイヤーの伴奏や、ベースとドラムを伴ったジャズピアノトリオのセッションなど、活躍の場は多岐に渡っている。先に紹介した大和さんとも専属の伴奏者として何度も共演し、自作の曲や自らジャズアレンジした曲も多数披露している。ジャンルを超えて演奏する際に気を付けていることを尋ねてみた。
「例えばクラシックとジャズとでは、リズムの取り方や音の出し方が違います。自分のベースにあるクラシックとの共通点や相違点も含め、それぞれのジャンルの歴史からメンタリティに至るまでを注意深く洞察しながら、その都度求められる音楽に臨機応変に染まれるよう心掛けています」。
研究の成果を出版
金沢あきな(リーブル出版)
「今後は特にジャズアレンジに多く取り組んでいきたい」と話す金沢さん。ジャズの演奏は基本的にアドリブで、楽譜に細かい音符が書かれている訳ではない。それでも長年クラシックと共に歩んできた金沢さんにとって、楽譜はかけがいのないものである。そこで学生の頃に出会ったカプースチンの曲に再び注目した。カプースチンは1937年生まれのロシアのピアニスト兼作曲家で、多くのジャズ作品を楽譜として残している。金沢さんはその中の1曲を研究し、2026年の3月に『カプースチン「変奏曲作品41」の分析と演奏への提案』を出版した。副題は~ジャズとクラシックの融合?!~と付けているが、楽譜で書かれたジャズ作品の解説や演奏方法が、多くの譜例とともに詳しくまとめられている。この本はピアニストだけでなく、あらゆる楽器のプレイヤーにとって大きな指針となるかもしれない。ポップス全盛の今日、クラシックの演奏家にも幅広いジャンルの曲の演奏が求められるだろうし、曲によってはアドリブが必要となることもあるだろう。特に若い演奏家たちにお薦めしたい一冊である。
数多の楽器を操る『フライングドクター』
(上段:宇野伊世さん、石田千尋さん、下段:小林真裕美さん、かとうめいさん、岩田ゆいこさん)
最後に、ユニークな活動をしている演奏家ユニットを紹介しよう。「自家用機に乗って遠隔地へ行き治療をする医者」という意味の熟語から「フライングドクター」と名付けたこの女性ユニットは、2009年に結成。2025年9月からは宇野伊世さん、石田千尋さんの2人を中心に、3人のサポートメンバーを加えた新体制で演奏活動を続けている。
最大で30台ほどの楽器を持ち替えながら演奏する、変化に富んだ色彩豊かなサウンドを強みにしている。扱う楽器はピアノ、ヴァイオリン、バスクラリネット、ウクレレ、トイピアノ、そして複数の鍵盤ハーモニカとパーカッション。これらを何度も持ち替え、時には1人2つ以上の楽器を同時に演奏したりする。そのパフォーマンスは何度見ても興味をそそられる。
豊田市にある「野田味噌商店 蔵の杜」という味噌蔵でのライブが始まりだったそうで、その後ライブハウス、小劇場、ホールでの公演と展開していった。12年前よりYouTubeを定期的に配信しており、現在に至るまで膨大な数の動画をアップしている。これまでに7枚のCDをリリースするなど、その精力的な活動は地元のマスコミにも注目され、テレビやラジオへの出演も多い。
レパートリーは、クラシック、ポップス、アニメソングなど、幅広い年代の人々にとってなじみ深い曲のほか、メンバーのオリジナル曲も披露している。使用する楽器に相応しいアレンジを自分たちで行っているが、特にクラシック作品は興味深い。原曲通りではなく、テンポ、リズム、拍子、和音などに変化を加え、アドリブを含む乗りのある演奏で、とても親しみやすい楽曲へと変容させていて、メンバーは「ポップクラシック」と呼んでいる。その想いをメンバーの宇野さんに聞いてみた。
「自分たちの音楽に出逢った人たちを元気にしたい、幸せにしたいという想いで活動しています。単にウケを狙うのではなく、私たち独自の表現を大事にしたいと考えています」。
2025年8月に電気文化会館ザ・コンサートホールで15周年記念リサイタルを開催。バロックから20世紀までのクラシック音楽を色とりどりの楽器で演奏し、満員の観客は大喜びで、大変な熱気に包まれていた。今後の活躍も大いに期待される演奏家ユニットである。
今後の展望
今回取材した演奏家たちにはいくつかの共通点があった。いずれもクラシック音楽をスタートとしながらも、ジャンルの壁を軽々と飛び越え、観客に寄り添い、エンターテインメントの担い手たらんとしている。彼らの演奏に聴衆は喝采を以て応え、舞台と客席が一体化した空間が現出されていた。これらのように、市民が生演奏に触れる機会がもっと増えれば、名古屋は音楽に溢れる街として、より一層活気に満ちることだろう。



