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視点

「メニコン シアターAoi」と 名古屋の小劇場 ~名古屋の民間小劇場、その現況と特色~

 2023年7月、千種駅からほど近い名古屋市中心部に、演劇・音楽・舞踊公演などを上演する総合芸術劇場としてグランドオープンした「メニコン シアターAoi」。公益財団法人メニコン芸術文化記念財団が、隣接する「HITOMI ホール」(2012年開館)に続いて設立したこの劇場は、新たな文化芸術発信拠点として大きな期待を集めている。また、同じく名古屋の民間
劇場として近年、高い稼働率で私たち観客に多彩な舞台芸術を届けてくれる小劇場にも注目。独自の視点や運営方針により小劇場演劇シーンを支え、活性化に貢献する名古屋の民間小劇場をご紹介します。

(まとめ:望月 勝美)

パンデミックの最中に届いた
新劇場誕生のニュース

JR・地下鉄の千種駅より徒歩4分の好立地に建ち、メニコン株式会社の本社オフィスと劇場から成る「メニコン シアターAoiビル」

 舞台芸術の世界にも大きな打撃を与えた新型コロナウイルスの感染拡大から約 3 年 ──「メニコン シアターAoi」開館の報が届けられたのは、2022年末のことだった。おりしも第8波到来中のまだまだ不安な状況下でありながらも、〈名古屋に新たな劇場が誕生する〉という明るいニュースに胸躍った。

 (株)メニコンの代表執行役会長 CEO の田中英成氏は、2021年に一般財団法人メニコン芸術文化記念財団を設立。2023年に公益財団法人の認定を受け、現在に至るまでその代表理事も務められている。2023年4月には、地上9階、地下1階建ての新社屋をオープン。その1階〜6階部分に、301の客席とオーケストラピット、最新の音響・照明・舞台機構を備えた「メニコン シアターAoi」が誕生した。

 初代芸術監督には劇作家・演出家の山口茜さんが就任し、以降、山口さんのグランドデザインに沿った多彩なプログラムによる主催公演と貸館事業を行っている。

1階エントランスホールの一角には、気軽に立ち寄ることができる
カフェ「miru-on cafe」も併設

開館から1年を振り返って
見えてきた2年目以降の課題

 2023年7月にグランドオープンを迎えた劇場では、こけら落としの歌劇『あしたの瞳』(メニコン創業者の田中恭一名誉会長の半生をモチーフにした歌劇)を皮切りに、初年度の主催公演として演劇や音楽、人形劇、人材育成プログラムなど15公演を実施。山口さんが主宰するトリコ・A や、劇団チョコレートケーキの新作、作家・演出家・俳優の岩井秀人さんが構成・演出・脚色を手掛けた参加者公募作品、子どもも大人も
一緒に楽しめる座・高円寺レパートリー、人形劇ユニットと演出家の天野天街さんがタッグを組んだ ITOプロジェクトの糸あやつり人形芝居ほか、東西の良質な創り手による作品や、当地ゆかりのアーティストが関わる作品など、バラエティに富んだ魅力的なラインナップを展開した。

 そして現在、開館から1年を迎え、同劇場では既に2024年度の主催事業ラインナップもスタートしているが、初年度を経て山口さんは、「劇場に人を集めることの難しさを痛感し、考えさせられる1年」だったという。1年目の成果を検証する前に2年目のラインナップを決めなくてはいけなかったため、今年度での大きな変化はないそうだが、「“芸術を日常の中に取り入れていく仕組み”みたいなものを作るための入口がいるんだな、ということを実感しました。今後も観客と向き合ったり、交わり合ったりすることを強く意識しているアーティストを呼んでいこう、と改めて思いました」と、山口さん。

民間劇場ならではの独自性を発揮し
より多くの人が訪れやすい開かれた場へ

 現在は京都在住で2児の母でもある山口さんは、子育てを通して地域の人々や個人商店などと交流する機会を得たことで、地域の方に助けられ、生かされていることを実感したという。そうした日常の出来事が芸術監督としての考えにも反映され、劇場周辺の地域の人々との繋がりについても、この1年で一層意識するようになり、今は近隣の方々が生活圏内に劇場があることをどのように捉えているのか、とても興味があるのだとか。

 また、自身も幼少期から生きづらさを抱え、葛藤してきた経験から、山口さんは就任当初より“社会的弱者やマイノリティにも寄り添う劇場づくり”を目指し続けている。「子どもたちや、子育て中の保護者の方、外国籍の方、障がいのある方、高齢者など、そういう方たちが日頃我慢しているようなことが少しでも減るように劇場があるといいな、と思います」と語り、「劇場に足を運ぶ習慣を持てる人というのは、家庭が安定していたり、金銭的にある程度余裕のある方だったりすると思いますが、そうではない方たちにはどうしたら劇場に来てもらえるか、ということも考えていきたい」とも。

 そんな山口さんの右腕となって、共に主催事業のラインナップを考案したり、芸術監督の考えを具現化するサポートとともに、劇場業務全般を担う副館長の樋口寿弥さんも、人と人との繋がりを重視し、観客と劇場スタッフが相互に顔の見える運営を目指しているという。

左から副館長の樋口寿弥さん
芸術監督の山口茜さん

 「この劇場が何を届けたいのか、どういうお客様に来ていただきたいのか、どういうものを見せたいのか、ということをまだまだ考えていく段階ですので、京都にいらっしゃる山口さんと連携しつつ、名古屋にいる私たち劇場スタッフに何が出来るのか、ということを日々考えています。山口さんが思い描いていらっしゃることを現場としてどのように現実の運営に落とし込んでいくかということは、やはりコツコツと観劇人口を増やしていくことに尽きるのかなと。そのためにも近隣の方々にも気軽に立ち寄っていただけるよう、私が劇場の窓口になれればいいな、
と考えています」

 他にも、地元アーティストとの連携作品の創作や、単に作品を鑑賞する場に留まらない、観客同士の交流の場としての機能を備える構想などもあるようで、3年目、5年目、10年目と進化していく未来も追い続けていきたい劇場だ。

実は同一オーナー所有による
個性豊かな5つの表現活動の場

 一方、名古屋には近年、よりコンパクトな規模感の空間として利用の多い民間劇場が幾つか存在している。中でも、中区伏見の「G/pit」、西区那古野の「円頓寺 Les Piliers」、中村区亀島の「ナンジャーレ」の3館は、当地のさまざまな劇団やプロデュース団体などによって数多くの公演が催され、個人的にも観客として足を運ぶ機会の多い小劇場だ。

 実はこの3館とも、中区伏見の中京ビル1階にある文具店・中京堂がオーナーの劇場である。ほかにも、主にダンス公演やワークショップなどが行われる中村区長戸井町の「黄金4422BLDG.」、さらに中京堂の向かいに建つ「総合劇集団俳優館」のビルも所有しているそう。

 といっても、このうち中京堂のご主人が劇場づくりに関わったのは同ビル内の1階部分に設けた「G/pit」のみで、ここを劇場として整備することになった経緯も、たまたま演劇関係者に空きスペースを貸したことによる思わぬ展開だったため、参考にするために、東京の小劇場を幾つも巡って見学を重ねたそうだ。

収支は二の次!?
“ 劇団を守り、支える”を旗印に運営

 そうしたオーナーの愛ある支援のもと、2004年12月末にオープンした「G/pit」の立ち上げから関わり、現在も代表として劇場運営を担う俳優の松井真人さんは、「中京堂さんには場所を貸していただいているというより、いろいろな面でいつも助けていただいている、という感じです。ここが出来た当時はまだ名古屋に演劇の賞も少なかったので、民間で賞を出す演劇祭を企画できるような劇場を作ろう、と考えてスタートしました」と。

 その目標どおり、【チャレンジフェスティバル】や【名古屋演劇杯】といった企画を数年に渡って実施し、松井さん自身も若手劇団や学生劇団をバックアップしてきた。残念ながら現在は一時中断しているが、「劇団を応援していきたい」というスタンスの劇場であることに変わりはなく、そうした創り手側に寄り添う運営方針が利用率の高さに反映されているのだろう。

 また、中京堂が「G/pit」のほか4館を所有するに至った経緯は、「劇場や表現活動を行える物件を敢えて選んでいったというよりは、偶然の要素の方が強かった」とのことだが、既に劇場として機能していた空間を買い受けたり、店子である劇場主に物件の利用法を一任するなど、演劇活動に理解を示すオーナーはとても貴重な存在だ。所有する各館それぞれの活動を尊重し、応援する姿勢が、自由な創造の現場を守り、ひいては観客にとっても個性豊かな空間や多様な舞台芸術を享受できることに繋がっているのではないだろうか。

 今回、詳細に触れられなかった上記4館のほかにも、名古屋にはまだまだ魅力的な民間小劇場があるので、機会があればいつかまたご紹介したい。

演目により舞台や客席を自在に配置可能で
最大50名まで収容できる「G/pit」
劇団あおきりみかん所属の俳優として各所で活躍する傍ら
「G/pit」の代表も務める松井真人さん