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洋舞の振付家・指導者

まつむら かずは

松村 一葉 さん

「風通しの良い振付作品」を 目指して

 コロナ禍からの復活に力を注ぐ名古屋の洋舞界。旗振り役として期待されている中堅の一人が、川口節子バレエ団を拠点に活躍する気鋭の振付家で指導者の松村一葉さんです。アメリカ留学時代の恩師の教え「舞踊は時間と空間の両方を司る芸術である」を深く心に刻み込んで創作に奮闘し、観客の記憶に残る舞台公演を目指して厳しい指導に精励する松村さんに、情熱の源や今後の夢を語っていただきました。

(聞き手:桐山 健一)

アメリカ留学で創作の基本と魅力を実体験

お母さんと踊る幼少期の松村さん

 自宅の1階が母(川口節子さん)のバレエスタジオで、物心つく前から見よう見まねで踊っていたそうです。児童舞踊コンクールでの友達と一緒のバス旅行など、楽しい思い出の多い子ども時代でしたね。大好きな舞踊の知識を深め、可能性を広げたい、と考えて16歳の時にアメリカに留学。サンフランシスコ・シティ・バレエ・スクールで4年間、ニューヨーク州立大学舞踊科でバレエ、モダンダンス、創作技術を中心に舞台芸術全般を4年間学び、数々の作品を踊りました。卒業公演作品『Piecesof Enchantment』では選曲・振付を手掛け、「遊び心が満載。洒落たステップも魅力」と評されました。創作活動の原点とも言える作品で、何度も作り直した当時のことが鮮明に蘇ってきます。

 留学の最大の収穫は、振付の基本的な精神から実技まで徹底して学んだことです。基本中の基本は「空間構成において風を通すことの大切さ」。つまり「平面的」な印象に陥らず、「左右対称」も多用せず、見た目にも「息が詰まらず」、常識や決まり事を壊して「予定調和にならない」ことが重要で、「風通しが良くて奥行きを感じさせる空間を創出するムーブメント」こそが舞台という3D 空間で映える事実を何度も実体験しました。

アメリカ留学中の仲間たちと

ダンサーの資質と心に響く音楽が触発

 アメリカで1年間の指導者経験もして24歳で帰国。創作と指導を2本柱にした舞踊人生の第2章が始まりました。創作の基本はダンサーファースト。資質を見極めて刺激を受けることから始まり、心に響く音楽が流れてくると自然と体が動き出し、ダンサーと音楽に触発されて次第に「作品」という形になっていきます。風通しの良さに加え、型にとらわれない独創性や切れ味の鋭さも大事にしています。

 これまでに約50の作品を手掛け、評判も良くて私も気に入っている作品には、脱力した動きをユーモラスに見せる『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』、16名のダンサーが予測できない動きの中で一瞬も静止することなく10数分間も踊り続ける『Vitamins』、閉店後のバーでカクテルたちとバーテンダーが多彩なダンスを繰り広げるスピーディーでカラフルな『Cocktails』、憧れの振付家ジョージ・バランシン風の粋で華やかな『アメリカン・ファンファーレ』……。今年1月の名古屋洋舞家協議会主催公演『Dancefreedom’24』で上演した『エレメント~風火水土~』は自然のエネルギーを視覚化した小品で、「モダンな感性と機知に富む構成には目を見張るものがある」と、身に余る評価をいただきました。

『Cocktails』

 名古屋市文化振興事業団企画公演の『白馬亭にて』(2017年)と『伯爵令嬢マリツァ』(2022年)のオペレッタ2作品の振付に選ばれたのも貴重な経験でした。他ジャンルのクリエイターとの新たな出会いは刺激的で収穫も多いから、何とも楽しいですね。演出家や指揮者の要望にも結構柔軟な対応ができると自負しているので、今後も機会があれば様々な分野とのコラボレーションに参加したいし、委嘱作品の中にも「自分の色」を出せれば喜びも倍増です。

『伯爵令嬢マリツァ』のカーテンコールで

厳しい指導で「頭の良いダンサー」を育成

 次世代を担う若い才能の指導・育成では、型と振りを徹底的に覚え、応用力を付けることで練習課題を完全に達成する喜びを学んでほしい、と思っています。どんなに素晴らしい才能や技術があっても振りや注意を覚えられないとプロにはなれないので、バレエ脳を鍛えて「頭の良いダンサー」を育てたいですね。バレエ団では小学5年生から大人まで指導していますが、子どもたちの人生を担う責任を持つ覚悟で厳しい指導を続けているため、私のクラスには途中から来なくなってしまう子も少なくありません。「ダンサーの表情が生き生きしている」とか、「コール・ド・バレエがしっかりしているのは日ごろの厳しい指導力のたまもの」とか評していただくことがありますが、最高の誉め言葉ですね。

芸術創造賞受賞で貢献の必要性も自覚

 名古屋市芸術創造センターのバレエアカデミーでも講師を務めました。2017年の修了公演『SHOW CASE』では明かりをテーマにした群舞の『The Light』をフィリップ・グラスのミニマル・ミュージックで創作しましたが、前衛的なコンテンポラリー作品にもかかわらず受講生46名中30名もが出演したいと言ってくれたのは予想外の喜びでした。

 喜びと言えば、2022年に名古屋市文化振興事業団の第38回芸術創造賞を受賞したこともそうですね。ダンサーとしては芽が出ず、出産を機にリタイアしましたが、振付家として評価されたのには胸が熱くなりました。この授賞は「当地舞踊界に貢献するように」との叱咤激励でもあると思いますので、求められれば振付作品の提供も積極的に引き受けたいですね。幾何学が好きな私は理系脳だと思っていますが、今後は様々な舞台芸術を鑑賞することで文系脳も養い、メッセージ性やストーリー性の強い作品にも取り組むことが目標です。「日本的な情緒も増せば、一段と魅力的な作品になる」とのアドバイスもいただいています。

芸術創造賞受賞を記念してご家族と

使命は上質な作品上演、課題は集客増

 川口節子バレエ団の2本柱「古典バレエの全幕上演」と「独自の創作作品の上演」の充実に力を注ぎ、テクニックも表現力も向上させて「また見たい」と思ってもらえるような質の良い作品の上演が最大の使命ですが、集客も大きな課題ですね。観客が多ければ多いほどモチベーションも上がるし、多くの拍手がダンサーたちを育ててくれる。出演ダンサーのチケット販売ノルマも減る。いいことづくめだから、公演のたびに満席にするのが夢で、SNSでレッスン風景を発信するなど広報活動にも力を入れています。「プロになれないなら辞めるしかない」という常識が根強い日本のバレエ文化が変わって、末長く舞踊に関わり続けられる環境が作られれば、これほど嬉しいことはありません。

川口節子バレエ団

2025年1月、惑星がテーマの新作を上演

 10歳、6歳、4歳の3人の子どもの育児にも時間を取られて大変ですが、好きな道を歩んでいるので少しも苦になりません。2025年1月の川口節子バレエ団の定期公演『舞浪漫』ではトリを飾る30分の新作を上演する予定で、挑戦するテーマは「惑星」。壮大な世界観をトゥシューズで踊るエンターテインメント性豊かなコンテンポラリーバレエです。観客の皆さんの人生を明るくする作品になるよう、日々試行錯誤を続けています。