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- 若きバレエダンサーのいま│大寺 資二 さん
若きバレエダンサーのいま
少子化によりバレエを習う子どもの数は全国的に減少傾向にあります。名古屋のバレエ団やバレエスクールでも同様の課題を抱えています。そんな中、公益社団法人日本バレエ協会中部支部は2~3年ごとにグランドバレエを上演することで、地域のバレエダンサーに貴重な舞台経験の場を提供し、中部のバレエ界にとって大きな役割を果たしています。
今回は、日本バレエ協会中部支部が2025年10月に上演する「眠れる森の美女」のプロローグでパ・ド・シス役を務める女性バレエダンサー6名にお話を伺いました。
(まとめ:大寺 資二)
愛知で育ち飛躍するダンサー
新国立劇場バレエ団のプリンシパルとして国内外で活躍する米沢唯さんは東京生まれ、名古屋育ち。米沢さんは2025年7月末に新国立劇場バレエ団の「ジゼル」ロンドン公演でジゼルを踊りました。K バレエカンパニーで活躍した吉田早織さんは名古屋市出身。吉田さんは、2025年10月5日に愛知県芸術劇場で開催される第46回中部バレエフェスティバル「眠れる森の美女」(全3幕プロローグ付き)でオーロラ姫を踊ります。この「眠れる森の美女」プロローグのパ・ド・シス役で出演する女性バレエダンサーの池下みのりさん、加藤千佳さん、日下部衿さん、千野梨華さん、宮原詩音さん、山室芽生さんの6人にお話を伺いました。(以下、敬称略。)
バレエとの出会いや想い
―まず皆さんがバレエを始めたきっかけをお伺いします。
池下「発表できる習い事をしたくて。本当はフラメンコを習いたかったのですが、家の近くには無くてバレエを習いました。今もフラメンコは踊ってみたいです」
加藤「母親の勧めで。保育園の一つ年下の友人が習っていたからです」
日下部「可愛い衣裳を着たくて、カルチャーセンターへ行きましたが、そこでは綺麗な衣裳を着られないとわかり、バレエスタジオにしました」
千野「初めての習い事を何かしたいと思っていた時に、体が弱いからバレエが良いのでは、と病院の先生から勧められて始めました」
宮原「叔母がバレエを習っていて、飴をもらって始めました(笑)」
山室「サンリオのキャラクターがバレエをしていたからです」
バレエを始めたきっかけは、人それぞれですが、「今までバレエを続けてきて、やめようと思ったことはありますか?」の問いには、ただ一人、加藤さんが「一度も無い」との答え。ほかの5名からは「えー、いいね!」「凄い!」の声が。
日下部「実は、高校生の頃に一度やめましたが、今の先生に出会い、新しい学びがあって、楽しいと思えて今も踊っています」
宮原「就職する年齢(バレエ学校は18歳頃に卒業)に、なかなかカンパニーへ行くことが出来なくて、バレエを諦めてコンテンポラリーに転向しようかと悩んだこともありました。その頃の先生にクラシックバレエを続けなさいと勧められて、ロシアのオーディションを受けたら合格することが出来たので、バレエを続けています。バレエを辞めなくて良かったと思います」
今のバレエ界では、早ければ小学生や中学生で海外へ留学します。今は海外へ行ってもスマホやタブレットで顔を見て、誰とでもいつでも話が出来る環境なので、昔のようにホームシックになる人は殆どいないとのこと。みなさん、バレエが好きだからこそ続けてこられたようです。
バレエを続けてきて良かったこと
池下「バレエを続けてきて良かったことは、同じ目標を持つ人達と出会い、切磋琢磨し合える仲間ができたことです。バレエとは直接関係ないことになってしまいますが、バレエの先生や先輩方が厳しかったので、学生時代のアルバイト先で、怖い社員さんや先輩がいても平気でした(笑)。打たれ強さは鍛えられたと思います」
加藤「15年間続けてきて良かったと思うのは、努力の仕方を学べたことです。今まで勉強も他の習い事も全力を出せなかったけれど、バレエだけは続けてこられました。評価されることも増え、努力は無駄ではなかったと思えるようになりました。もちろん私よりバレエが上手い人は沢山いるけれど、上達することより大切なのは、胸を張って全力で努力できること。辛いこともたくさんあるけれど、それも含めて、バレエを続けてきて良かったと心から思っています」
宮原「バレエが好きで、これからも踊り続けると思います。気持ちが揺れた時に出会った先生の言葉でバレエが好きだと気付けたこと。あとは、小さい頃からバレエを習っていたことで、年上の方や先生と接することが多く、言葉遣いや礼儀作法を教えていただき、バレエ以外の生活の中でも役立っています。また全幕作品や発表会に出演することで、自然と緊張する中で集中力、周りとの協調性の大切さを学びました」
バレエに限らず、幼少期から習い事を続ける中には、反抗期や進学、友人や先生との関係など、さまざまな困難やハードルがあったことでしょう。習い事から仕事に昇華するためには大変な努力も必要だったでしょう。
最近ある方から伺った話の中で、「頑張る」という言葉は、やりたくないことだから「頑張る」、好きなことは、時間を忘れるくらい没頭できる、という考えに共感しました。「頑張る」ではなく、「好きになる」。本番の前に「頑張って!」ではなく「楽しんで!」と声をかける理由もそこにあるのでしょう。
先ほどの「努力の仕方を学べた」というコメントも、胸を張って全力で努力できたから言える言葉。バレエを好きだからこそ、「頑張ってきた」ではなく「努力してきた」と言えるのだと思います。
踊りたい!やってみたい!学びたい!
―これから挑戦してみたいことを教えてください。
「踊るのが好きなので、もっと踊る機会が欲しいです。同世代の仲間と一緒にもっと踊りたい。仲間でグループを作って好きな作品を踊るのもいいですよね」「今は、あらかじめ決まった作品のオーディションを受けることが多いですが、作品を創り上げることにも興味があります。振付だけではなく、照明のことを考えたり、スタッフとの打ち合わせを通して新しい学びがあると思います」などとお話いただきました。
―今回の「眠れる森の美女」のオーディションを受けよ
うと思ったきっかけは?
「『眠れる森の美女』の全幕は、なかなか踊る機会がなく、山本康介さんの振付ということもあって受けました」「康介さんの講習会では多くの学びがあり、今回振付されるので受けました」「康介さんの振付作品には何度も出演したことはありましたが、『眠れる森の美女』の全幕には出演したことが無いので受けました」「康介さんのレッスンや作品のリハーサルの中では、沢山の発見や驚きがあるので受けました」「愛知県芸術劇場での舞台で、オーケストラの演奏もあり、特別な機会だと感じました」「私たちの出番は、主役のオーロラ姫が唯一出演していない場面です。この場面の見せ場は、私たちパ・ド・シスです(笑)」と、みなさん意気揚々です。
振付の山本康介さんはダンサーに絶大の人気を誇っています。英国ロイヤル・バレエスクールを主席で卒業し、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で活躍。帰国後はダンサー、演出家、指導者として幅広く活動し、NHK の解説者としても知られています。ダンサーたちにとっては、康介さんの人柄と、豊富な知識からの演出や指導力が最大の魅力。リハーサルではバレエの歴史や音楽、作品や振付の背景まで丁寧に伝えてもらえる、学びの宝庫のような存在です。
まとめ
30年ほど前は、劇場主催や名古屋市主催のバレエ公演が毎年のように行われていましたが、そのような公演が減少してきました。
今回の「眠れる森の美女」は、多くのバレエスクールのダンサーたちが舞台を経験できる良い機会となります。51団体からダンサーが集まり、ゲストを含めると出演者は総勢100名以上。山本康介さんの振付、井田勝大さん(K-BALLET TOKYO 及びシアターオーケストラトウキョウ音楽監督)の指揮、セントラル愛知交響楽団の演奏、愛知県芸術劇場の協力を得て、充実したリハーサル環境のもと、本番を迎えます。バレエ「眠れる森の美女」の魅力・中部のダンサーの魅力を観客の皆様に伝えられる舞台になると楽しみにしています。
バレエダンサーには、日々のレッスンが一番大切ではありますが、舞台を経験することで大きく成長できます。この舞台を通して皆さんが飛躍することを心から願っています。
(執筆は2025年8月)
