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ピアニスト
むかわ けいご務川 慧悟 さん
2019年にロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで第2位を受賞し、2024年には第33回出光音楽賞を受賞するなど、日本のみならずヨーロッパでも大活躍の務川慧悟さん。本誌No.392 (2020年5・6月号)にて注目の若手音楽家のお一人として紹介したが、今回は務川さんの音楽観や今後の展望などを伺った。
(聞き手:濵津 清仁)
幼少期からの演奏活動
1993年、愛知県東海市に生まれ、その後、知多郡東浦町に移り住んだ務川さん。3歳からピアノを始め、小学4年生の時に名古屋芸術大学音楽学部主催「第1回 小・中・高校生の為のピアノコンチェルト」にて筆者と共演したのが演奏活動のはじまりであった。この時は、モーツァルト作曲のピアノ協奏曲 第12番イ長調KV.414第1楽章を演奏した。聴衆だけでなく、共演したオーケストラのメンバーからも評判が良かったことが思い出される。筆者も将来、才能を発揮するのではないかと期待していた。その後、しばらくはヤマハ音楽教室でレッスンを受けながら、自作の曲を演奏するなど技術を磨き、愛知県立旭丘高等学校、東京藝術大学へと進学する。2012年には第81回日本音楽コンクールで第1位を受賞し、セントラル愛知交響楽団と共演した受賞記念コンサートにてチャイコフスキー作曲のピアノ協奏曲第2番を演奏するなど、本格的な演奏活動を開始した。
第1回 小・中・高校生の為のピアノコンチェルト(2005年)
東京からパリへ
東京藝術大学を経て、2014年にパリ国立高等音楽院を審査員満場一致の首席で合格して渡仏する。最初は「3年ぐらいで学位を取って帰ろう」と考えていた。現在パリ在住10年目になるが、始めの5年間はほぼ研鑽を積むのがメインであった。しかし大きな転機となったのは、2019年のロン・ティボー・クレスパン国際コンクールにて第2位を受賞したことであった。これがきっかけとなり、フランスで演奏活動を続けたいという思いが強くなったという。その後コロナ禍になり半年ほどは日本で過ごすことになったが、2021年には世界三大コンクールの一つである、エリザベート王妃国際音楽コンクールにて第3位を受賞。さらにフランス語圏での繋がりができたことで、演奏活動の可能性が広がり、活躍する機会が増えた。
留学のきっかけは「パリという街が魅力的だったから」ということだが、その後フランク・ブラレイ氏と上田晴子氏に師事することになる。師事することになる。「先生の教え方などが自分にはぴったり合っていました」と衝撃的な出会いについて話す様子が非常に印象的であった。とはいえ、師の教えは、これまで培ってきた弾き方などを全てリセットし、一からやり直すことを意味していた。幼少期からピアノを弾いてきた分、弾けていると思い込んでいたと気付かされたことに加えて、言葉の壁や、慣れないパリでの生活など苦労が重なり落ち込んだ。しかし、パリに住み始めて5年が経つ頃には、日本からパリへ着くと「パリに帰って来た」と、パリが自分のホームグラウンドだと感じられるようになったと語る。
務川さんの音楽観
すでにルービンシュタイン、リパッティなどの名ピアニストによる録音作品が数ある中で、自分がピアノを弾く意味があるのだろうかと自問した務川さん。「シューベルトなどの作品の中には、自分ではメッセージ性が汲みとれないものもありますが、幼少期から弾いてきたショパンやラヴェルに関しては、この曲は絶対にこういうメッセージを持っていると自信をもって言えます」と語る。勿論、技術的な部分で乗り越えなければいけない障壁はある。務川さんは続けて「ショパン作曲のバラード 第4番などは、技術的な要素ではなく表現的な部分で難しいと言われますが、自分は難しいと思ったことはありません。ショパンが伝えたいだろうメッセージを思い描きながら、確信を持って弾いています」とのこと。それは幼少期から数々のレッスンを受け、様々な演奏家と出会い、パリでの生活を通して得た現地の文化や風習・言語、建物や街並みなどの空間から感じる雰囲気・空気感から、作者のメッセージをどうピアノで再現するかを培ってきた蓄積の上にある。「プロとして演奏することに一定の自信はもっています」と語る務川さんからは、穏やかではあるが確かな誇りが感じられた。
また、務川さんは積極的にラヴェル作品を採り上げており「ラヴェルピアノ作品全曲演奏」をテーマにしたリサイタルを2017年、シャネル・ピグマリオン・デイズにおいて開催した。2022年にはNOVA Recordより「ラヴェル:ピアノ作品全集」をリリースし、その誇りがすでに実績により裏付けされている。
これからの展望
今後やりたいことはいろいろあり悩むものの、大きくは2つあるという。
「1つ目は、アーティストとしてパリに住むことです。アーティストとして住むということは、ビザを取得して住むことを意味します。日本で自分のするべきことも多いですが、ヨーロッパでどれだけのことができるか精一杯、挑戦していきたいと思っています。日本とパリとフィフティー・フィフティーで活動したいと考えています」
「2つ目は、室内楽の魅力を広めることです。パリに来てからの5年間で、室内楽にたくさん取り組みました。上質な室内楽を楽しむ空気がパリにはあり、聴衆も演奏会の数も多いので、さらにそれを広げていきたいと思います」とも話す。実際、務川さんのスケジュールには2025~2026年にかけて室内楽の演奏会も多く予定されている。2024年10月には、パリにてフォーレのヴァイオリンソナタを演奏するなど、これからもこの分野での活動を広げていきたいということが表れている。
今後の活動
今後の演奏会の詳細については「務川慧悟 KEIGO MUKAWA OFFICIAL SITE 」(https://keigomukawa.com)で見ることができる。X(旧Twitter)でも、務川さんの活動をリアルタイムで追うことができる。
筆者もたびたび拝見しているが「イタリアからパリに帰って来た」という表現は、パリを拠点に活躍されているのを強く感じた言葉であった。今後の務川さんの活躍が非常に楽しみで、目が離せない。
■務川慧悟 Keigo MUKAWA(@keigoop32)
https://x.com/keigoop32
