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1年をふりかえって
演劇

編集者・ライター 小島 祐未子 さん

 2025年は若手の活躍が目立った。2022年旗揚げのハコトバコは10月の「BRUTE」で果敢な創作に挑んでいた。舞台は動物園。新人の栗原理久は「ホミニス」というヒトそっくりの生き物を担当することになり、謎多き生態に戸惑いながらも仕事と真摯に向き合う。ところが、園内のニホンザルと特定外来生物の交雑が発覚。そのせいで生まれた雑種の大量殺処分が行われ、理久は苦悩する。やがて「地球を破壊する危険生物」とされてきたホミニスにも殺処分が迫り…。ホミニスとの交雑種だとわかった主人公の恋人を客席に座らせる演出など気概を感じる趣向が多い中、何より良かったのは人物造形だ。特に先輩飼育員や獣医師ら科学者のある種の冷徹さが圧巻。それでいて全員がチャーミングで、劇作・演出・俳優の作業がうまく溶け合っていた。結果、彼らは名古屋市民芸術祭賞(演劇部門)を受賞している。

ハコトバコ「BRUTE」(10月10日~13日 G/PIT)

 合同公演「吉報」を続ける老若男女未来学園、劇団サカナデ、喜劇のヒロインの3団体もユニークな活動を見せた。1月には吉報vol. 3「のびる」で各団体が短編を上演。10月には長久手市文化の家の野外企画に招かれ、石作神社を舞台に持ち味豊かな競演で訪れた人たちを楽しませた。なお、劇団サカナデは11月に「この音はどこまで」で名古屋市民芸術祭特別賞〈奨励賞〉に選ばれている。

 中でも喜劇のヒロインは精力的だった。文化の家が3月に開催した野外企画でも好演。12月には「生乾いた笑い」で〈笑い〉というものに真正面から取り組んだ。ある干物メーカーを描く同作は職場におけるユーモアの功罪を浮き彫りにして痛快だった。コミュニケーションを円滑にするユーモアも人によっては不要・不快なのに、否定するのは難しい。偽りの笑顔を強いられているかもしれない職場環境と干物の産地偽装疑惑を二重構造で展開させた点も面白かった。主宰の新宮虎太朗は11月に「生まれる!」で第31回劇作家協会新人戯曲賞の佳作に入選しており、脂がのっている。

喜劇のヒロイン「生乾いた笑い」(12月25日~29日 七ツ寺共同スタジオ)
(撮影:夏目圭一郎)

一方でベテランの作品も印象深い。2月の北村想× perkypat presents「空がとってもあおいからⅢ」は前年に発表した作品の続編。舞台であるミルクホールの焼け焦げたカーテンが開くと、フレーム(額縁)越しに物語が展開していく。やって来るのは核戦争後の世界を旅してきた男と戦災孤児。北村の名作「寿歌」を巡るやり取りもあってメタ構造の劇はコミカルにも映るが、男の見た遺体の話などから惨状も伝わってくる。終盤に語られる荒野に咲いた一輪の赤い薔薇は悲劇的状況の中にも存在する美や救いの象徴だろうか。終幕、登場人物たちはフレームの外=現実世界へと歩み出すが、その先にある修羅を想うと震えた。

 1980年設立のクセックACT は5月にセルバンテスの「ドン・キホーテ…狂気を演じ続けて…」で解散公演を敢行。4度目の上演を数える代名詞的な演目だが、あらためて狂気とは何か問いかけた田尻陽一の台本、「動く絵画」とうたわれた神宮寺啓の演出や美学が冴え、見事な幕切れだった。