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1年をふりかえって
能楽

椙山女学園大学教授 飯塚 恵理人 さん

2025年の名古屋能楽堂定例公演からいくつかの好舞台を紹介する。

 1月3日「正月特別公演」。《翁》の山階彌右衛門は謡の声量があり厳かで堂々とした翁大夫であった。またこの《翁》で井上蒼大が三番叟を披いたが、師父井上松次郎伝授の狂言共同社の型に忠実で、身体の切れが良い元気はつらつとした三番叟であった。さらに後藤嘉津幸の小鼓頭取で名古屋の幸清流の翁の囃子が聴けたのが嬉しかった。

 3月2日「三月特別公演」。今枝郁雄の《花折》は、今枝の酒につられて参詣人を入れてしまうところ、いかにも酒好きの新発意らしく表現していた。また酔ったあげくに参詣人達に花を折って渡し、帰ってきた住持に叱られてしまうが、住持の怒りをごまかして逃げようとするしたたかさ、怒られ慣れている雰囲気もうまく表現していた。井上松次郎をはじめとする参詣人の小舞も楽し気で、春にふさわしいおおらかな《花折》の好演だった。

「五月定例公演」吉沢旭《三輪》
Ⓒ公益社団法人能楽協会

 5月17日「五月定例公演」。吉沢旭の《三輪》は、謡の上手さで定評のあった泉嘉夫師の最晩年の弟子であった吉沢らしく神らしい気高さが感じられる謡でとても良かった。ワキ玄賓僧都の飯冨雅介は、「山頭には・・・」の謡が静かな晩秋の山の美しさを感じさせてとても良かった。

 7月5日「七月定例公演」。《羽衣 替ノ型》の本田布由樹は盤渉調の序之舞が美しく、日頃の修練の成果が発揮されたものと思われた。またここでは笛:山村友子、小鼓:船戸昭弘、大鼓:河村裕一郎、太鼓:加藤洋輝という名古屋メンバー揃いの囃子が大いに盛り上げてくれた。

「九月定例公演」鹿島俊裕《弓矢太郎》(写真左)
Ⓒ公益社団法人能楽協会

 9月7日「九月定例公演」。《源氏供養》の長田郷はシテ謡が口跡よく、真摯に光源氏の成仏を祈る雰囲気があったのと、クセ舞が典雅であった。狂言は鹿島俊裕の《弓矢太郎》。鹿島のシテ太郎は臆病なくせに虚勢をはる男を、狂言らしく上品に面白く演じて秀逸であった。もう一番の能は久田三津子の《葵上 梓之出》。シテの久田の前場の「枕之段」が身体の切れよく「今ハ打たでハ叶ふまじ」という葵上への怒りと源氏に思われない哀しみが良く表現されていた。対してワキ横川の小聖(橋本宰)と対峙する場面では身体が切れて迫力があった。久田は囃子を大切にした舞に定評がある。この《葵上》も久田の日頃の修練の成果が出たと思う。

 10 月19 日の「十月定例公演」。狂言は野村信朗(野村小三
郎(2026年2月8日に襲名披露))の《苞山伏》。真犯人である道行人(野村又三郎)に濡れ衣を着せられた山伏(野村信朗)が祈りによって真相を明らかにしようとする。信朗の祈りの様にも又三郎のなかなか白状しない演技にも狂言らしい面白さがあった。衣斐愛の《弱法師》は特にシテ謡の上手さが光った。シテの一セイの「出入りの・・・」から上品な少年が零落した様を表し、その立ち姿も相まって貴種流離譚のような趣きがあった。またワキ高安通俊(橋本宰)との問答は橋本の風格のあるセリフもよく、シテ・ワキ共に好演であった。