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1年をふりかえって
洋楽

音楽ジャーナリスト 早川 立大 さん

 [器楽]オーケストラを中心に話題の多い1年だった。まずは愛知県内に拠点を持つ4つの楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団(以下、名フィル)、セントラル愛知交響楽団(セントラル愛知響)、中部フィルハーモニー交響楽団(中部フィル)、愛知室内オーケストラ(愛知室内)が初めて一堂に会し、ブラームスの交響曲全曲を演奏したこと(8月31日、愛知県芸術劇場コンサートホール)。1番は愛知室内、2番を中部フィル、3番はセントラル愛知響、4番を名フィルが分担した。満席の盛況下、難しい第3番を豪快精緻に佳演したセントラル愛知響をはじめ、各楽団とも熱気にあふれ、持ち味を存分に発揮した。

 名フィルの第538回定期演奏会でダウスゴー指揮、ブルックナー「交響曲第8番」の第2日(10月11日、同)に「フライング・ブラヴォー」が起きた。名フィルは直ちに「終演後の早すぎる『ブラヴォー』は私どもにとってうれしいものではございません」と失望感をSNSで発信。これに対する閲覧数が4800万を超えた。事務局に寄せられた直接の反応は肯定的な意見が多かったという。セントラル愛知響はハイドンの最後の交響曲、「ザロモン・セット」全12曲の演奏を完遂した(12月4日、電気文化会館ザ・コンサートホール)。2019年の第1回から毎回2曲ずつを番号順に取り上げ、6回で仕上げた。進取に富んだハイドン作品の精神が音楽監督角田鋼亮の卓越した指揮により、軽快にはつらつと表現され秀逸だった。

セントラル愛知響 ハイドンの精神Vol.6
(12月4日 電気文化会館ザ・コンサートホール)(撮影:中川幸作)

 ソロでは国際的に活躍する名手、竹澤恭子がバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全6曲に挑んだ2回のリサイタルに指を屈する(11月15日、29日、宗次ホール)。現時点での彼女のバッハ研究の集大成といえる入魂の、見事な出来栄えだった。アメリカやフランスで研鑽を積んだ新鋭ピアニスト堀夏紀は、2回のリサイタルにおいてドビュッシーのベルガマスク組曲やコープランドのソナタで豊かな成果を披露した(3月1日、11月23日、電気文化会館ザ・コンサートホール)。

竹澤恭子 J・S・バッハ無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
(11月29日 宗次ホール)

 [声楽]オペラでは、藤原歌劇団が愛知県芸術劇場などと共催したヴェルディ『ファルスタッフ』(2月8日、愛知県芸術劇場大ホール)以外に、地元団体によるめぼしい公演がなかった。セントラル愛知響がビゼー『カルメン』ハイライト(3月22日、愛知県芸術劇場コンサートホール)、愛知室内がモーツァルト『コジ・ファン・トゥッテ』演奏会形式(3月29日、東海市芸術劇場)で空隙を埋めた。

 歌曲ではソプラノ加藤佳代子のフランス歌曲コンサート(6月14日、電気文化会館ザ・コンサートホール)、メゾソプラノ相可佐代子のリサイタル(10月17日、同)を挙げよう。それぞれがフランス歌曲を取り上げ、歌詞の内容を的確に表現しながら、表情豊かな歌唱を聴かせた。

 中部フィルをその創成時から訓育し、国際的にも活躍した長老指揮者の秋山和慶さんが1月26日に84歳で、名古屋二期会理事長の水谷和樹さんが12月2日に71歳で、亡くなった。この地方の音楽界に多大の貢献をしただけに、大きな損失となった。