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風媒社 編集長 劉 永昇 さん
2025年は戦後80年かつ昭和100年にあたり、先の戦争が遺した記憶、そして〈昭和〉という時代が生み出した功罪を再検証する本が数多く出版された。特別な年であるだけに、この視点から名古屋の文学・文芸を概覧したい。
名古屋出身のノンフィクションライターであり、愛知県内の大学で教鞭をとる藤井誠二が企画した『ソウル・サーチン~「沖縄」を描き続ける男・新里堅進作品選集および評伝~』(リイド社)は、漫画家・新里堅進(沖縄在住)氏の代表作を収録した912頁に及ぶ大冊。現在、東京と沖縄で二拠点生活を送る藤井が、沖縄戦を描き続ける新里氏の作品を発掘・紹介し、評伝を描き下ろしている。伝説的な劇画作家・新里の再評価を促すとともに、本土がもつ記憶からは、沖縄がアジア・太平洋戦争最悪の戦場であったという最も重要な歴史的事実が欠けていることを強く訴える。戦後80年とは遠い昔のように感じる年月だが、寛解しない現実の〈傷〉が、今もなお残っていることを突きつけてくる。
文芸同人誌『北斗』所属の寺田繁『小説 岡戸武平 乱歩わが友』(風媒社)の帯には、「昭和百年を記念するにふさわしい労作」との文字がある。名古屋演劇ペンクラブ理事長・ねんげ句会同人の馬場駿吉氏の言葉である。本作は、江戸川乱歩、小酒井不木と深く交わり、第1回直木賞の有力候補にも挙がった作家・岡戸武平の評伝小説。武平は、昭和初年ごろから名古屋で活動し、戦後は名古屋タイムズの創刊にかかわり、企業ノンフィクションの書き手としても活躍した作家である。寺田の前作の主人公である父・寺田栄一も武平の友人として作中に登場し、当時の名古屋文化人の生態を活写する。代表作に小説「小泉八雲」のある岡戸武平だが、今では知る人ぞ知る「幻の作家」と言われる。彼の起伏に富み闊達な人生は、そのまま昭和名古屋文壇の軌跡と言うことができよう。
(風媒社)
(岩波書店)
戦前に存在した「外地」の書店と本の流通業者である取次店の歴史をたどった名古屋大学大学院教授・日比嘉高の『帝国の書店 書物が編んだ近代日本の知のネットワーク』(岩波書店)は、他に類を見ない文化・経済史であるとともに、戦時下に本とともに生きた人びとの記録としても読むことができる。大日本帝国の海外侵出は多くの人間の移動を生み出したが、そこには書物の移動が伴った。植民地に形成された書物の流通ネットワークが、内地・外地の読者を戦争賛美という思想で結び、戦争遂行に大きな影響を与えたことが解き明かされる。そこには経済的な理由から、自発的に統制下に入ろうとする出版界の姿さえ見られる。〝新しい戦前〟と言われる時代状況の現在、およそ書物や文字にかかわる人間はこれを知っておくべきである。
2026年 Spring号
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名古屋市民芸術祭賞
吉田文パイプオルガンリサイタル The Leipzig Connections 1908 -風琴浪漫の知られざる英雄たち-
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名古屋市民芸術祭賞
ハコトバコ第4回本公演「BRUTE」
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名古屋市民芸術祭賞
第10回なごや古典らいぶ ~古典の真髄 未来への継承~
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名古屋市民芸術祭特別賞
Duo Aurea Donna Onna ~歌曲でたどる女性作曲家の世界~
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名古屋市民芸術祭特別賞
内田好美フラメンコソロ公演「孤独生」Vol.4/10 ~徨~
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名古屋市民芸術祭特別賞
劇団サカナデ第5回本公演「この音はどこまで」
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名古屋市民芸術祭特別賞
アカデミー国枝バレエ2025公演 「シンフォニー・ファンタスティック~ある男の物語~」 ~pour les jeunes ~〈第2部〉
