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美術評論家・名古屋造形大学教授 高橋 綾子 さん
ロシアによるウクライナ侵略、パレスチナでの戦闘、イスラエルとイランの軍事衝突など不安定な世界情勢が継続した2025年、日本は戦後80年の節目の年だった。この年のアクチュアルな「美術」の状況を背景とした展覧会としては、まず3年に一度開催され、6回目を迎えた愛知県の国際展が挙げられる。愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館と瀬戸市のまちなかを会場とした国際芸術祭「あいち2025」は、芸術監督にアラブ首長国連邦出身で国際的な影響力を誇るキュレーターであるフール・アル・カシミを迎えて、「灰と薔薇のあいまに」という文学的な含意によって立場や解釈の二極化を避けながら、世界の紛争と環境破壊などの危機への思考を促すという啓蒙的なテーマを掲げていた。愛知県美術館での展示はゆったり鑑賞でき、若い観客が愉しげにスマートフォンを作品にかざしている様子も印象的だった。
なお愛知県美術館は、「パウル・クレー展-創造をめぐる星座」が優れて学術的な成果を発揮し、改修工事のため休館していた愛知県陶磁美術館がリニューアルした。2026年4月から、この2館の「地方独立行政法人愛知県美術館機構」への統合が発表されたことにも注目したい。これによって運営の効率化ばかりが優先されない、柔軟性と充実を期待したい。
名古屋市美術館は常設展の充実が目立った。「匹亞会結成70年 結成前夜」や「近代名古屋の日本画界」は出色で、後者では初紹介の画家を含む30人以上の日本画家が紹介された。学芸員の世代交代を背景としつつ、研究の継承と更新への期待が高まった。館の特徴を踏まえた地道な学芸員による調査研究という面では、一宮市三岸節子記念美術館の「中谷ミユキ展 ―語り合う静物」と「岡田三郎助 優美な色彩・気品ある女性像」が挙げられる。
30周年を迎えた豊田市美術館は、髙橋節郎館のリニューアルオープンもあり、隣接して2024年に開館した豊田市博物館とともに、美しい建築空間と文化ゾーンとしての魅力がますます発揮された。特に新鮮だったのは1990年生まれの気鋭の若手による大胆な作品空間が創出された「玉山拓郎:FLOOR」。そして「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」は、戦後美術にジェンダー研究の観点を対応した意欲的かつ時季を得た内容で見応えがあった。
また「瀬戸現代美術展2025」や清須市はるひ美術館の「城戸保 駐車空間、富士景、光画」の充実によって、愛知県を拠点とする中堅アーティストたちの存在が頼もしく印象付けられた。一方で、80歳を超えた現役作家の健在ぶりが嬉しい展観もあった。名古屋画廊での「庄司達展-垂れ布シリーズ2025-」は旧作からの新たな展開が示され、碧南市藤井達吉現代美術館での「吉岡弘昭展 哀しみとおかしみを湛えた不思議な魅力」は、約60年に及ぶ気骨ある画業が総覧された。
最後に「戦後80年」を謳った展観が多くはなく、芸術環境の変化への予兆が気になる一年であったことも付け加えておく。
2026年 Spring号
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名古屋市民芸術祭賞
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