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- 2024年 Spring号
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美術評論家・名古屋造形大学教授 高橋 綾子 さん
70年ぶりに改正された博物館法が2023年4月から施行、前年の国際博物館会議(ICOM)総会では、約15年ぶりに「ミュージアム」の定義が改正された。我が国の博物館には、文化観光やまちづくりへの貢献が求められ、国際的には包摂的であるとともに多様性と持続可能性を育む場であることが強調された。2023年はミュージアムの曲がり角として、美術館の活動も少なからずその影響下にあったといえよう。
こうした国内外の要請に対して、愛知県美術館は美術という枠組みや地域の文化環境に対峙して、地道な調査研究と卓越した編集力で応答した。「近代日本の視覚開化 明治─呼応し合う西洋と日本のイメージ」と「幻の愛知県博物館」という渋いラインナップは、さながら「読む」展示でもあり、歴史再考への矜持とアーカイブへの真摯な態度が際立った。国際芸術祭地域展開事業「なめらかでないしぐさ現代美術in 西尾」は、作品とのマッチングで地域資源への再発見を誘いつつ、地元の人々との気負いのない運営に好感を持った。
実物大のハリボテ金鯱が鎮座した
(提供:愛知県美術館)
公開修復作業
(提供:名古屋市美術館)
開館35周年の名古屋市美術館は、「コレクションの20世紀」で全出品作品を年代順に紹介。さらに市民からの募金によって2022年から始動した「東山動物園猛獣画廊壁画修復プロジェクト」は、愛知県立芸術大学文化財保存修復研究所によって人材育成を図りつつ作業が公開されたことは出色で、美術館のあらたな可能性を拓いたと言える。
コレクションの充実という本分を示唆したのは、開館15周年の碧南市藤井達吉現代美術館リニューアル記念展「碧い海の宝箱―達吉からはばたく未来―」。地元作家の個展では、一宮市三岸節子記念美術館「安藤正子展 ゆくかは」と清須市はるひ美術館「栗木義夫CULTIVATION―耕す彫刻」が、時季を得た丁寧な展観であった。
エッジの効いた現代美術では、豊田市美術館の「ねこのほそ道」と「吹けば風」。コレクション企画展「枠と波」や「歿後20年若林奮」の充実にも感嘆した。さらに愛知県美術館・豊田市美術館 同時期開催コレクション展「徳冨満──テーブルの上の宇宙」が注目された。2001年に35歳で早逝した徳冨満の作品が、鮮新な強度をもって日の目をみたことは喜ばしく、意味のあることだと得心した。しかるべき作品調査を経て美術館に収蔵、アーカイブされることの内実にこそ、ミュージアムの核心があるからだ。
愛知県ゆかりの美術家として、現役でたゆまぬ創作活動を展開されていた森真吾さんが86歳で、桑山忠明さんが91歳で亡くなられた報に触れ、心から哀悼の意を表したい。そして「あいち2022」ラーニングプログラムで新局面を披露していた徳重道朗さんが、51歳の若さで急逝されたことは痛恨の極みだった。2001年に名古屋市民ギャラリー矢田のオープニング企画展での仮想的で飄々とした作風は思い出深く、近年のリサーチ型からの展開が大いに期待された矢先。批評家やミュージアムによる調査研究が、徳重さんの存在と作品への再考を促すことに期待したい。
