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- 2024年 Spring号
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椙山女学園大学教授 飯塚 恵理人 さん
2023年に鑑賞した名古屋能楽堂の舞台から印象に残ったものをいくつか取り上げる。
「名古屋能楽堂正月特別公演」(1月3日)の久田三津子〈楊貴妃 台留〉。抑えた調子ながら口跡よく響く謡が、玄宗への思慕と現在の淋しさを表現しており素晴らしかった。舞も規矩正しく美しかった。
「名古屋能楽堂三月特別公演」(3月5日)は久田勘鷗の〈求塚〉。若女の面をかけた前シテ菜摘女にふさわしい清純さが、思いつめた心情を語るシテ謡にしっかり表現されていた。後場では地獄の責め苦に遭う場面など美しい型でありながら責めの苦しみを表現し、詩劇としての能になっていた。名古屋の重鎮としての久田勘鷗の健在を示した好演であった。
名古屋宝生会「桃華能」(3月19日)に和久荘太郎の〈春日龍神〉が出た。ワキ明恵上人の飯冨雅介はいつもながら口跡良く、信仰心の篤い僧侶ぶり。前シテ宮人の和久荘太郎も口跡よく厳かで強く、明恵の入唐を止めたい春日明神の神慮を伝える者としての説得力にあふれていた。
令和5年度第1回目の「青陽会研究能」(4月9日)は吉沢旭の〈東北〉。前後ともに和泉式部の化身にふさわしい雅やかで美しい姿だった。吉沢の魅力は師匠の泉嘉夫師に鍛えられた謡の確かさにあり、前場のシテ謡など特に良かった。
(撮影:国東薫)
シテ方の観世喜正、大鼓方の河村眞之介、小鼓方の後藤嘉津幸、笛方の竹市学の会である「能の旅人」も第17回を迎えた(6月24日)。今回は珍しい小書がついた〈三輪 白式神神楽〉。後シテの観世喜正は白一色の装束で女神らしい清らな姿だった。眼目はやはり神楽で、身体の切れが良い上に美しく上品であった。メンバーに前川光長の太鼓を加えた名手揃いの囃子が素晴らしかった。
11月5日の「名古屋金春会」の〈融とおる 笏ノ舞〉。前シテは本田光洋、後シテは本田布由樹。前シテ老翁は「常のよりも白くお公家さんにふさわしいかと」いう天下一大和の焼印がある三光尉の面をかけていたが、さすがに融の大臣の化身にふさわしい上品な顔立ちであった。
また特に「名所教え」のシテ謡が月と名所に在世を偲ぶ融の心情を美しく描いた。後シテの布由樹は早舞ではなく急之舞を舞ったが、颯爽とした貴公子らしさが佳かった。前シテは謡に、後シテは舞に日頃の研鑽の成果が発揮された好演であった。
「復曲能を観る会」の名古屋公演(12月16日)では〈大磯〉が上演された。ワキ僧の安田登は雪の中の旅を風雅に和歌的に謡で表現した。前シテ虎御前の化身の女の加藤眞悟は死後も残る曽我祐成への思慕を切なく感じさせた。
名古屋能楽堂は2024年4月から10月末まで改修工事のため閉館する。またそれと入れ替わるように豊田市能楽堂でも2025年4月1日から26年6月1日までの改修工事が予定されており、これからの公演のあり方は大きく変わるだろう。良い方向に向かうことを期待している。
(撮影:新宮夕海)
