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- 2023年 Spring号
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編集者・ライター 小島 祐未子 さん
近年、room16を主宰する八代将弥に注目してきた。八代は俳優として出演する外部公演で多忙な一方、劇作や演出にも秀で、2022年は2作品で成果をあげた。room16とは別に立ち上げた演 劇ユニット「16号 室」の 名 義で8月に新 作「FICTION」を発表。11月には野田秀樹の「THE BEE」を一人芝居に仕立て上げた。
「FICTION」はチェーホフの名作「かもめ」に取り組む演劇人たちのバックステージもので、八代は演出家役で出演もしている。まさに虚実皮膜の世界に、彼自身の演劇論もうかがえたのは興味深い。生々しい会話劇で鳴らす八代の一つの到達点ともいえる作品だ。圧巻は「かもめ」本番の見せ方。主に稽古場だったアクティングスペースが上昇し、その下から美しくまばゆいセットが出現。舞台を裏から表へと一気に反転させたのだ。これは久々に味わう劇的高揚感だった。対する「THE BEE」は、人質事件を描くヒリヒリした物語が八代の個性と合っていた。しかも本来4人の俳優で上演される作品を1人で演じ分けた発想力、演出力、演技力には脱帽するしかない。結果、この作品で令和4年度名古屋市民芸術祭特別賞を受賞した。
11月30日~12月4日 損保ジャパン人形劇場ひまわりホール
愛知人形劇センター製作「人形劇 寿歌」は、この戯曲の本質をあらためて示唆。「もの」と「ひと」の間に存在する人形は、作者・北村想の言葉の力と深い思考を真っすぐに伝えてくれた。半面、顔の変わらない人形から観客は自由に表情を読み解くことができるので、作品の多面性は高まる。「寿歌」は1979年初演の際、4組のキャストが競演したことで知られるが、それと同じように1つのイメージに縛られない上演を実現していた。
コロナ禍を乗り越え、公演を再開する劇団も目を引いた。てんぷくプロは1月に「超立体朗読劇 深夜の市長」を、劇団 B 級遊撃隊は7月に「らんぷ」を発表した。「深夜の市長」は海野十三の同名小説の舞台化。動きあり仕掛けありの演出で、アトリエ昭和薬局前の小さな和室に大都会 T 市を浮かび上がらせた。一方「らんぷ」は新美南吉の作品群を下敷きにシェイクスピアの「マクベス」と疫病はびこる現代社会を織り交ぜた、佃典彦らしい不条理劇。約30年ぶりに盟友・鬼頭卓見が客演。神谷尚吾の演出も大らかで良かった。
劇団ジャブジャブサーキットと天野天街(少年王者舘)は11月、通常と異なる趣向で公演。ジャブジャブサーキットの「シヴァ氏の幕間2022」では、主宰・はせひろいちがチェーホフと岸田國士の短編3作を演出した。天野は「不思議の国のアリス【ALICE Win Underground.】」で後進劇作家たちとコラボレーション。ただ、本編より維新派の名場面の再現が最高潮に映ったのは御愛嬌が過ぎるか。
最後に、1972年創立の七ツ寺共同スタジオが50周年の節目を迎えた。11月にはこけら落としだった「夢の肉弾三勇士」が当地の演劇人によってリメイクされ、世代を越えた交流、時代を越えた熱気をもたらした。秋には元代表の二村利之が長年の功績を認められ、ニッセイ・バックステージ賞を受賞。二村は9月に「往還Ⅲ朗読劇『ガジマル樹の下に』」を篠田竜太とともにプロデュースしており、勇退後も意欲的に舞台芸術を発信し続けている。
